JALにみる事業再生の極意

これも今日の日経から。

鮮やかに事業再生したJALの秘密はどこにあったのかの特集です。

「一人一人が経営者」という頭を植え付けたことがよかったようです。

やはり、事業再生は、「人」が鍵を握る。改めて痛感しました。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2010年1月、約2兆3000億円の負債を抱えて倒産した日本航空(JAL)。倒産前5万1000人いた従業員は3万2000人に減り「明日はどうなるのか」という不安が職場を覆った。しかし京セラ創業者の稲盛和夫を会長に迎えた同社の業績は鮮やかにV字回復し、12年9月には再上場。現在も高い利益水準を維持している。JALの現場はどう変わったのか。

 整備士の竹ノ内智大は羽田航空機整備センターでその日を迎えた。自分の会社が「会社更生法の適用を申請した」と言われても、飛行機は今まで通りに飛び、整備の仕事もいつも通りだった。

 竹ノ内は淡々と仕事を続けたが、破綻から数カ月後、朝の体操の時に周りを見渡して驚いた。20代~30代の若い整備士ばかりだったのだ。50代のベテラン整備士が早期退職でごっそり辞めた。

 現場が浮足立ち始めたその頃、「利他の心」などを説く稲盛の「フィロソフィ教育」が始まった。実家が自営業の竹ノ内は稲盛の著書を読んだことがあったが、JALに当てはまるとは思えなかった。「うちは宗教をやってるんじゃねえ」と反発する仲間もいた。

 しかし稲盛が持ち込んだ「フィロソフィ」と、部門別採算制の「アメーバ経営」が浸透するにつれ、整備の現場はみるみる変わっていった。

 一番の変化は元JAL、元JAS、元整備子会社という出身母体の垣根が消えたことだ。ベテランと若手がチームを組み、JASのベテランがJALの若手を育てることもある。破綻前にはなかった光景だ。

 整備には運航中の飛行機を飛び立つ前に直す整備と、1年かけてオーバーホールする重整備がある。破綻前は日常の整備のために数百億円の部品在庫を持っていた。

 今は重整備中の機体から部品を取り外して日常の整備に使うこともある。「作業も手続きも煩雑で整備士としてはやりたくないが、今はそれが正しいと思えばやる」(竹ノ内)

 入社4年目だった客室乗務員の旦千夏は当日非番で、翌日ミラノへのフライトに備えて出社した。もちろん職場の話題は倒産のことだった。

 「私たちどうなるの」「大丈夫なんじゃない」。現場にそれほどの切迫感はなかった。しかし離陸前、乗客に配る新聞を手にして旦はぎょっとした。「JAL破綻」。1面横見だしにそう書いた新聞を手渡すと、乗客に「大丈夫?」と聞かれた。自分たちに向けられる不信の目。このとき初めて旦は経営破綻で失ったものを痛感した。

 

数値で成果確認

 

 乗客に心ない言葉を投げつけられ、キャビンの隅で泣いたこともある。自信喪失状態の旦たちに配られたのが白い「JALフィロソフィ手帳」。「一人ひとりがJAL」「最高のバトンタッチを」。書かれた文言を基に「これできてないよね」と職場で話し合った。

 例えば機内販売。サービスの一環として破綻前もまじめにやっているつもりだったが、中には使ったことがない商品もあった。そこで空港のオペレーションセンターの一角に機内販売商品を集めたコーナーを作った。今日売る化粧品の香り、スカーフの手触りを確認してから乗務する。

 自信を持って乗客に勧められるから売り上げが伸びる。部門別採算制でその成果がすぐ分かる。「こんなに売れたんだ」。数値化された成果を見るともっと頑張ろうという元気が出る。

 国際販売部の丸山浩平は入社3年目で破綻を経験し、直後に青森支店に転勤した。以前7人いた営業スタッフは4人に減り、支店のスペースも半分になっていた。

 

受注、採算を重視

 

 入社以来、給料が下がり続け、ボーナスもまともにもらったことがない丸山たちの世代はコストにシビアで「やりたい放題にやっていたつもりはなかった」。だが部門別採算制の導入で「意識ががらりと変わった」。

 「以前は他社との対抗で値下げしても注文を取れば勝ち、と思っていた。今は利益が出ない受注はしない」(丸山)。「ここは高速道路を使わなくてもよかったんじゃないですか」。上司に対しても、そう言える。

 今年4月に機長に昇格した神谷重範もアメーバ経営による「見える化」の効果を実感した。着陸の時、エンジンの逆噴射を使わずブレーキで止まれば1回で10万円の燃料節約になる。アメーバの導入により、こうした施策で毎月1億4000万円の燃料費が節約できることが分かった。

 「一人ひとりが経営者」という稲盛哲学の浸透でパイロットのコスト意識も格段に高まった。一方で神谷は「コスト削減一辺倒にならないよう、ブレーキをかけるのも運航乗務員の役目」という。コストと安全がバーターになることがあってはならないからだ。

 そんな神谷も判断に迷った時は「JALフィロソフィ」に立ち返る。「人として何が正しいか、と考えれば答えは見えてくる」からだ。

 JALの14年3月期決算は米ボーイング787型機の運航停止などにも関わらず1576億円という高水準の経常利益を維持した。しかし「2度とああいう目(破綻)にはあいたくないですから」(竹ノ内)。今のところ現場に緩みはない。

 


JALにみる事業再生の極意” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です