経営良好ほどうつ病リスク
R4.1.17の日本農業新聞に、「経営や乳牛の状態が良い酪農家ほど、うつ病になりやすい」という記事が出ていました。
北海道大学、日本赤十字看護大学、日本大学の研究グループの発表です。
こちらにプレスリリースが出ています。
プレスリリースを読んでみましょう。
管理が行き届いた“良い農場”の経営者ほど抑うつ症状リスクが増加
「(略)特に,過重労働である酪農業を営む農業従事者の精神的健康状態は,他の産業よりも悪いと報告されています。
そこで本研究では,酪農経営における経営要因のメンタルヘルスへの影響を評価し,2 つの関係を定量的な調査により検討しました。(中略)酪農業の経営要因として,18 項目を取り上げ,特に重要な 9 つの経営要因を解析対象として,主成分分析*2及び二項ロジスティクス回帰分析を行いました。結果として,経済効率(農業所得率)が高く,十分に飼料を供給し,乳質が高い(リニアスコアが低い)農家ほど抑うつであることが明らかとなりました。つまり「管理の行き届いた農場システムほど経営者の精神的健康状態が悪い」ということです。
また,酪農経営における最も基本的な経営要因である経済性,飼料,乳質は,それぞれが相互に関連し,影響し合っており,単独で改善することは困難です。したがって,本研究では “要求の同時性“も重要なポイントとなります。これは,適正な財務状態,牛の飼養環境,乳質の維持が同時に行われることで,農場経営者の心理的ストレスレベルが高くなることが背景にあります。」
(プレスリリース資料)
非常に興味深い研究です。良い経営を営むほど精神的健康度もよいと思いがちですが、そうではないということですね。
論文はこちらにあります。内容は統計学の知識がないと読めません。。
注意書きとして、北海道の2町でのデータであること、男性女性の性差を勘案していないこと、観察であって因果関係の結論はできないことが示されています。因果関係については今後の研究課題とされています。
重要なポイントは「要求の同時性」であることで、経済性(高い農業所得)、飼料(高い濃縮飼料量)、乳質(低いリニアスコア(体細胞の少なさ)が同時に求められる。この3つを総称して「管理の行き届いた農場システム」と論文では読んでいるわけですが、ストレスが高まり、うつ病リスクが高まる。
じゃあ逆に経営が悪かったらうつ病リスクは低いのか?といえば、それはそれでストレスが高くなるわけで、因果関係は別のところにあるのではないかという感じがします。あくまで感じがしますというだけです。
少なくとも、他から見れば羨ましいと思われているような経営体であっても、精神的には大変厳しいことになっているということがあるわけで、釈迦が「有無同然」と喝破されたことを想起せずにおれません。
有無同然
有無同然とは、有っても無くても同じく然りということで、何が同じなのかと言えば、「憂い」悲しみ・心配が同じなのだということです。
有る者は金の鎖でつながれ、無い者は鉄の鎖でつながれているようなものだとも言われています。
ということは、経営状態が良い者も、悪い者も、根本的には同じ問題を抱えているのだと言うこともできましょう。
ではそれは何なのか。今後の研究に期待したいところです。